耳の奥では、まだあの日が鳴っている。 | こんな視点もいいじゃない。

耳の奥では、まだあの日が鳴っている。

「小岩はリトルロックシティ。音楽だけじゃなく、治安もね(笑)」
と言ったのはマブダチのシノだった。
確かに治安までひっくるめてロックしてる。その表現はうなづける。
別に自分が特別な被害に合っているわけでもないのに、小岩・新小岩
近辺は「ぜってー治安が良いとは言えねー」オーラをびしびしと感じる。
江戸川挟んで千葉県側に入っちゃうと、一気に平和モードになっちゃう
のにね。全く不思議。あ、とはいえ、市川って「オヤジ狩り」発祥の地だっけ?

まぁいいや。

ちょっとローカリーで申し訳ない。とにかく小岩。リトルロックシティ。
治安のロックさ加減に危うく騙されるところだったけれど、音楽に関し
ては果たしてそうなの?と、後からふと思っていた。
「小岩+NO MUSIC,NO LIFE.=中村一義」の公式しか頭に浮かばないあたし
は、シノの言葉の真意を確認するべく、4月9日(土)晴天の小春日和の中、
小岩に降り立った。

「DIE LIKE DOGS」Vol.18
小岩eM SEVEN で行われるエルカホン presentsのLive。
このエルカホンってバンドが、そもそもシノの身内バンドで、
3/25に1st Mini AlbumI GOT A REVENGE』(ATCR-6901 \1,365in tax)
が全国発売されたことによるレコ発ライブだった。

なもんで、事の発端はシノからのお誘いで、同じく短大の頃からのマブダチ・
ミッチーにも声をかけ、3人で小岩へ集合し、軽く遊んでから行こうか!と
いうプランを練り上げた。
・・・今にして思えば、これが大きな過ちだった。
いや、正確に言えば、あたしが勝手に大きな過ちを犯してしまった。
プラン自体は最高だ。大正解だった。短大の頃の仲間、フルメンバー
じゃないけれど、大好きなヤツらと久しぶりに集合できる。それだけで
正直興奮していた。正直、「ライブへ行く」という事がメインではなく、
「仲間と会う」ということがメインとなっていた。
その上、ライブに関しても「観に行く」ではなく、「観に行ってあげる」
の感覚になっていた。最高に失礼な態度。ライブに対してそんな半端な態度
で望んだ証拠として、ミュールでライブハウスへ足を踏み入れてしまったのである。

ライブへ行き慣れてる方ならご理解いただけるでしょう、この暴挙。
普段、あたしもスニーカー以外でライブハウスやホールへ来る女性を見ては
「・・・えーっとさぁ・・・」と呆れた気持ちで思ってたタイプである。
ニット関係の服装で来ちゃう人も同様。だったら、一番後ろで観ていて下さい、

と思ってしまう。
なのに、この日は迷うことなくミュールで出掛けた。
明らかに、ライブをメインに考えた行動ではなく、仲間と会うことがメイン、
そしてライブを観に行ってあげるというオマケつきがある、というような
感覚だったということが自分でもとてもよく分かる。


でも、ライブはもちろんそんなことはお構い無しにスタートする。18:30。
まずはMCがほど良く会場を暖めようと登場。ワンマン以外のライブだと、
最近多いよね、こういう演出。前説ってやつだね。
なので1組目から、オーディエンス側が乗りやすくなるっていう効果がある。

その1組目が、シスターマロニエ 。メインVo.&Gt.が女性の4ピースバンド。
B.の男性もサブでVo.を行い、その女性と男性の掛け合いが心地良い、
ツインボーカルのバンド。
メインVo.の女性が小柄なのに、とてもパワフルな声にまず圧倒される。
声がとてもよく通る。ボーカリストにとって、これは大きな武器だ。
個人的に女の子がギターをかき鳴らす様、というのがとても好きなあたしは、
彼女の声だけではなく、その様もとても気持ち良かった。あたしなんかより
も全然小柄なのに、めちゃくちゃかっこいい。その姿に一気に楽しくなる。

2組目が始まる前に、後ろ側へ場所を移した。これにはワケがある。
ミッチーは過去、耳の病気を患ったことがあり、大きな音には自信がない。
しかし、一番最初に陣取っていた場所がPAスピーカーのまん前。
彼女自身、これはマズイと思っての判断だったのだろう。
そんな彼女もボーカリスト。もちろん、耳は一番大事な器官だ。
ただ、このハコの大きさだとどこで聴いても音は一緒だ。
音が耳の許容する以上の音。
実は、いわゆる「音が割れてる」という状態は、プロが音を操っている限りは、
ほとんどないのが実情である。両手で抱えても持ちきれない程の大きさ以上

のスピーカーなら、「音が割れる」程の大きさの音量を出力する前に、人間の

耳がその音についていけなくなる。実はただそれだけの事なのだ。

そのくらい、人間の耳という器官はあまり頑丈にはできていなかったりする。

2組目はThe silhouettes
こちらはDr.×B.×Gt.&Vo.のシンプルな構成の3ピース。
そしてこちらはB.が女性。これがまたしても、とんでもなくかっこ良かった。
B.を持ってない普通の状態でも、モデルさん並みに最高のスタイル。
背は高く、手足は長く、スレンダーな美人さん。それがB.という武器を手に、
何人もいるオーディエンスにもまったく怯むことなく自分のやるべき事を成す。
そしてこの人は、自分の魅せ方というものを本当によく知っているようだった。
この曲の、このフレーズのときは、どう弾けば自分がかっこよくみえるのか、
どうパフォーマンスすれば、客が「お!」と思って盛り上がってくれるのか。
それをしっかりと自分で把握している。そんな余裕さえ感じられた。
だから、嫌でも目がそれを追ってしまう。彼女のパフォーマンスを漏らすまいと
観てしまう。パフォーマーにとって、一番大切な要素を持っている。

このくらいから、フロア側もどんどん温度が上がっていく。
そして子供の姿も増える。ん?子供??
そうです。ライブハウスで1歳半と3歳の男の子と会うとはまさか思わなかった。
1歳半の男の子のママは、シノの妹のミワちゃん。短大の頃からシノから
話は聞いてたし、写真で顔も知ってたけれど、お互い会うのはこれが初めて。
美人姉妹なわけですよ、これが。そしてその息子のアキトくんも、これまた
かわいいのなんのって!ほっぺた食べたかったよ、お姉さんは!
もう1人の3歳の男の子のママは、シノの会社の同僚の方。お会いした感じは
とっても若くてかわいい方なのに、3歳の息子さんがいることに少しの驚き。
この3歳の天使、ユウヤくんもとっても愛嬌があってかわいいのなんのって!
全然人見知りしないし、ずーっと笑顔で、ママと一緒にいられることを心の
底から喜んでるような感じ。そして、ガンガン音がなっているこの状況にも
臆することなく、むしろ体をリズムに合わせて揺らしたり、拳をガンガン
突き上げる等の勘の良さを披露。若干3歳にして、これは頼もしい。
でも、ひょっとしたらそれって逆なのかもな。子供達の方が素直なんだ。
聞こえてきた音、見えている光景に対して、素直に体で表現してるだけ。
ただそれだけなんだろう。大人はいつの間にか、自由な表現を忘れてるのかも
しれないな、なんて、子供達を見ながらボケーっと思った。

3組目はTHE WORLD APARTMENT HORROR 。通称ワルアパ?
ここらへんから一気にフロアのテンションもアップ!途中でモッシュが発生!
危ない!何がって、子供達が。子供をモッシュから守りながらライブを観る。
そんなのはもちろん初体験だ。
でも、ここら辺から一気に例のミュールで着ちゃった事を後悔するハメに
なってる自分がムクムクと頭をもたげて来ることになる。
このバンド、ステージングが非常に上手い。自分達のスタイルを楽しみつつ、
とてもスマートに客をノせる。その手口にうまく騙されない自分が少し嫌に
なる。ロックを目の前に、ロックできない自分が嫌になる。

そして4組目。shout moskva (しゃうと・もすくわ と読むらしい)。
実はこのバンドは、シノが事前にあたしに対して推してくれていたイケメン
バンドだったりする。なので、興味津々であたしもステージを見守る。
でも、あたしがこのバンドに惹かれたのは、イケメン振りだけではなかった。
途中で下手側(客席からステージへ向かって左側)のギターのストラップが
壊れて、外れてしまうというトラブルが発生。それが曲の途中だったため、
その曲が終わるまで、Gt.はストラップなしで引き続けることになってしまった。
これ、結構大変だ。腹筋がないと辛い。
しかし、その曲が終わって、曲間にVo.がMCをしている間にスタッフが直そう
としてもなかなか直らない。Vo.はなかなか次の曲が始められない状況に
対して、「トラブルを楽しむこともロック」と、その心境を素直に言葉にし始めた。
あたしがこのバンドに惹かれたのは、このVo.の素直でまっすぐな言葉だった。
トラブルは起きてはいけない。それが一番いいに越したことはない。
しかし、突如、予想もできないようなことが起きてしまうのがトラブル。
それをどう乗り切るか。トラブルをトラブルと感じさせずに曲を弾ききった
Gt.にも拍手だし、トラブルが起きてる現状を逆手にとってオーディエンスを
盛り上げたVo.にも拍手だ。幸い、ストラップもなんとか直って、曲を再開した
彼らに、フロア側もVo.の言葉に共鳴したかのように今まで以上により盛り上がった。
なんだか、やっとステージとフロアが一つになった様を見る事ができた。

そしてラスト。とうとう今回の企画の主役、エルカホンが登場である。
フロアも最高潮。モッシュが止まらない。
今回初めて聴くエルカホンの音は、予想通り、というか、予想以上に
男らしい、武骨なロックだった。リズム隊がしっかり大黒柱として機能し、
Gt.がその大黒柱を生かすようなデザインを、いくつにも形を変えて魅せ
ていく。3人のメンバーがみんな、小さな頃からの友達だからなのかもし
れないが、今まで観たどのバンドよりも息がぴったり合っていた。

途中、Vo.のマサルがMCで放った言葉。「確かな理想、確固たる信念は
現実を底上げする」。よく、「強く想えば夢は叶う」というけれど、
それって余りにも漠然としてて具体性がないじゃん。と思ってたあたしが、
ちょっと形を変えただけなのかもしれないこの言葉に、なんだか強く
納得させられた。将来、こんなことをやりたい。こんな人になりたい。
そう想って、それに向かって走ることは、今のこの時の自分をどんどん
高めていってくれる。なんでも目指してやる。なぜなら、目指すという
行為自体が、自分をその位置へ導いてくれるから。漠然としてると思って
いた言葉が、しっかりとカラーでよく見えるようになったような気分だ。
彼らなら、出来るかもしれない、と思った。彼らが望んでいることを現実
のものと出来るかもしれない、と。

きっとエルカホンは細く長く続くバンドだ。同姓にものすごくウケのいい
アーティストはみんなそうだから、というだけの理由で判断してしまって
申し訳ないが、そう感じた。
フロアでモッシュを繰り返し、一緒に拳を上げ、大声で歌っていた人は
圧倒的に男性が多かった。ものすごく熱かった。しかし、エルカホンは
それに負けず、むしろそのパワーをすべて吸収し、音楽という形にして
還元していってるようにすら思えた。
彼らは魔法使いだ。エルカホンだけではない。この日出演した全バンドも
そうだし、世界中で頑張って輝いているアーティストみんなに対して、
いつもあたしが思っていること。音楽を創り、形にし、その魔法で
聴いている人達を楽しくさせたり、感動させたり、時には気持ちを救ったり
することができる。ライブに至っては、その場にいる大勢の心を一つに
したり、その時だけしか創れないものを創り上げたりする。あたしは
そんな魔法使い達が大好きだ。そして、その魔法にかかることも大好きだ。
この夜、あたしは確かに、エルカホンのロックの魔法にかかっていた。
すげぇ楽しかった。だからこそ、前半からしつこく言ってるミュールの
存在が疎ましくて仕方なかった。


ライブ終了後、帰ると言ったあたしに対し、忙しく物販で働いていたシノは
「打ち上げ出てよ!」と誘ってくれた。でも、正直、早く帰ってこのレビュー
が書きたくなっていたことと、その打ち上げはあたしが出るべきではない、
という気持ちから、今回は辞退させていただいた。
今日のこのライブの打ち上げは、汗をかいた彼らのものだ。アーティスト側も
オーディエンス側も、キラキラの汗をかいた、あの人達のものだ。その人達が
冷え冷えのビールを飲む資格があり、その人達が「うまいっ!」と実感する
べきだ。残念ながら、今夜のあたしにはその資格はないと、自分で思っていた。
しかし、帰り道に「でも、そのキラキラの顔を見ながら飲むビールもうまかった
かもな」と、ちょびっとだけ後悔してたことは、未だ誰にも秘密だ。

次は参戦するよ。いつもライブの時の相棒である赤いスニーカーを履いてさ。